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名古屋高等裁判所 昭和50年(ラ)132号 決定

抗告人

稲垣よね

外四名

右五名代理人

吉田清

外一名

主文

原決定を取消す。

名古屋地方裁判所執行官は名古屋高等裁判所昭和四六年(ネ)第二八四号建物収去土地明渡請求控訴事件の判決の執行力ある正本及び名古屋地方裁判所昭和五〇年(モ乙)第一三〇八号建物収去決定正本に基づく抗告人らの申立による強制執行を実施せよ。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

二当裁判所の判断

本件記録によれば、名古屋地方裁判所執行官稲吉千賀が、抗告人らと小野昌司外一名との間の名古屋高等裁判所昭和四六年(ネ)第二八四号建物収去土地明渡請求控訴事件の判決の執行力ある正本及び名古屋地方裁判所昭和五〇年(モ乙)第一三〇八号建物収去決定正本に基づき執行債務者小野昌司所有の別紙物件目録記載の建物に対する強制執行を開始したが、右小野昌司の妻である小野シヅから右建物の登記簿謄本を添えて昭和五〇年一〇月一六日付で上申書と題する書面を提出され、右建物は小野昌司の単独所有ではなく、同人と小野シヅの共有である旨申出されたため、稲吉執行官は右建物は右両名の共有であると認定して強制執行をなさなかつたことが認められる。

しかしなが、執行官は、民訴法五五〇条に規定する事由がある場合を除き、債務名義に表示されたところに従つてすみやかに強制執行を実施すべき職責を負うものであつて、当該不動産の所有権の帰属につき実体的調査をする権限を有しないところ、右登記簿謄本や上申書の提出が同条に規定する事由に当たるものとは認められない。そして、小野シヅは夫小野昌司とともに右建物に同居していることが認められるが、夫に対する債務名義に基づいて妻に対する家屋明渡の強制執行をすることを妨げるものではないから、執行債権者が強制執行の続行を求めていることの明らかな本件においては、稲吉執行官としては本件強制執行をなすべきものであつたといわなければならない(小野シヅが争う手段としては第三者異議の訴を提起し執行停止の決定を求めるなどの方法がある。)。

そうすると、本件強制執行を拒否した稲吉執行官の措置は違法であつて、本件強制執行の実施を命ずべきものであるから、これ異となる原決定を取消し、主文のとおり決定する。

(植村秀三 西川豊長 寺本栄一)

抗告の趣旨

一、原決定を取り消す。

二、名古屋地方裁判所執行官は名古屋高等裁判所昭和四六年(ネ)第二八四号建物収去土地明渡請求控訴事件の執行力ある正本並に、名古屋地方裁判所昭和五〇年(モ乙)第一、三〇八号建物収去決定正本に基づく申立人らの申立による強制執行を実施せよ。

との裁判を求める。

抗告の理由

一、即時抗告人らの執行方法に関する異議申立理由は、昭和五〇年(ヲ)第七八一号執行方法に関する異議申立事件の申立書記載のとおりであるが、名古屋地方裁判所は昭和五〇年一一月七日付原決定において、右申立を棄却した。

二、しかるに、原決定は、その理由において前後矛盾し、不当である。即ち、原決定二、(当裁判所の判断)では、「執行官としては、実体的判断事項である所有権の帰属について調査する権限のないことを」認めながら、「登記簿謄本により共有であることが証明された以上、右登記簿の記載を無視して執行をなすべきものでないことも、当然」であると断じている。しかしながら、登記簿謄本により調査しようとする対象は、本件においては単独所有か共有かであつて、まさに所有権の帰属という実体的判断事項に外ならず、本件執行において、執行官は、登記簿謄本をもとに自ら所有権の帰属を判断したことになる。もしこの場合の調査資料が単なる私文書であつたとすれば、執行官はこれを無視して執行を実施することは確実に予想されるところである。ところが、たまたま登記簿謄本という公文書であつたために実施を拒絶したのである。しかし、調査資料が私文書か公文書かは、右執行官の権限に何ら差異をもたらすべきものではないこと明らかである。

三、ひるがえつて考えると、原決定が是認した如く、一片の上申書で執行を停止することが認められるとするならば、第三者異議の訴及びそれに基づく執行に関する仮の処分の制度はその実際上の機能の場を失うことになつてしまうことは疑いがない。

四、また、実質的にみても、折角債務名義を取得しても、債務者が更正登記をくり返し共有者と称する者を次々に追加した場合処分禁止の仮処分が機能しえない以上、実際には強制執行は永久に不能に帰することになり、悪質な債務者の執行免脱を容認する結果となる。

五、以上のとおり、原決定は不当であるから即時抗告をする。

物件目録《省略》

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